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ちら、と運転席を見ると、
ハンドルを握る春山先生は
当然ながら前方を見つめていた。
…どうしたんだろう、急に…。
単純に嬉しくて、今にも
はしゃぎ出しそうなわたしを、
冷静なわたしが必死で
制御しようとしている。
先生がわたしを、こんな
遅い時間に呼び出すなんて、
初めてだもの。
きっと、何かある。
それがいいことなのか、
悪いことなのか、
…見極めてからじゃなきゃ、
喜べない。
*
春山先生からの突然の電話で、
わたしは目の前に停車したバスを
見送った。
『今、どこ?』
「え。…えっと、
…バス停ですけど…」
『どこの?』
「…区役所前の信号のところの…。
塾の、すぐ側の…。」
『ああ、分かった。
ちょっとそこで待ってて』
「…え?」
『迎えに行くから』
「……」
えっ。
*
――という、とてもシンプルな
約束を交わしたのち、今、
この状態になっている
わけなんだけど…。
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