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「悪いけど、いくらお客様でもこれ以上騒がれるのは困るんだよね」
「すんませんホント。すぐ出て行きますんで」
暴走モードの兄貴を連れて店を出ようとしたところで、宇宙人が「お待たせ」とこちらに歩み寄ってきた。すると店長の表情から険しさがあっという間に消し飛んだ。
「何だキミ達。佐藤ちゃんのお友達だったのか」
お友達……ま、そうなるか。店長は宇宙人の偽名を本名だと思っているらしい。どう見ても佐藤って面じゃないけれども。多分宇宙人コスプレ少女とかだと思ってんだろうな。店長のみならず、店員の金髪兄ちゃんやお客さんも。
「はい店長。彼らにはとてもよくしてもらってるんです」
「そうかそうか。なら話は別だ。ゆっくりしていくといい」
にこにこ顔で宇宙人の頭を撫でる店長の姿は、何だか父親のように思えた。愛されてんなぁ宇宙人。いい職場でよかったな。
店長が控え室へと消えた後、僕らはコンビニを出ることにした。ゆっくりしていけと言われても、そもそもコンビニはゆっくりする所じゃないし。
「あ、俺ついでだからコーヒー牛乳買ってくわ」
「なら俺が奢っちゃうよ愛希ちゅわーん」
「マジで? サンキュー。そうだ! せっかくだからィヲェスッァフヴがレジ打ってくれよ」
「いいわよ」
つーわけで、僕を残し他の面子は再びセブントゥエルブへと入っていった。数分足らずで出てくるだろう。それでもその数分間は暇になるので、ゲームでもしようと携帯電話を取り出した。現代の若者は、事あるごとにケータイを弄る。僕もまた然りだ。
最近は花札なんて古風なアプリに密かにハマっている。カス一文でこいこいせず上がった対戦相手のコンピューターを「根性なし」と罵っているところで、こちらを見ている野良猫の存在に気づいた。猫派の僕はアプリを強制終了して、猫へおいでと手を差し出す。
だがまぁ、案の定逃げられた。野良猫なのだから警戒されて当然なんだが、僕は触りたい。肉球とか。なので、追いかける。
しばらく駐車場を駆け回っていたが、猫は急に方向転換すると店舗の裏側へと逃げ込んでしまった。僕も後を追い店の裏側を覗き込むと、裏口の前で携帯電話を使い電話をしている店長の姿があった。しかし何だろう。さっきまでとは纏っている雰囲気が違うというか、まるで別人のような気さえした。
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