シーン5

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 ◇  どのくらい前の出来事かは知らないが、兄貴の言うオススメ物件ではとある女性が首吊り自殺をしている。その霊は未だに居座っているらしく、夜中に女性の悲鳴を聞いたとか、窓の向こうに誰かが立っていたとか、恐怖体験が相次いだ。  家賃の安さにつられて入居した者は皆一週間と持たずに逃げ出し、一度不動産屋の社長が近所の寺へお払いを頼んだらしいが、意気揚々と家に入ったその寺の住職は恐怖のあまり二階の窓をぶち破って逃げ出したんだとか。  そんな規格外の心霊スポットに流されるがまま到着したわけだが、見上げただけで異様な空気が伝わってくる。屋根の上ではカラスがけたたましく鳴いており、心霊現象に耐えかねたのか両隣の物件も『空家』の表記がされていた。ついでに言えば、ここに着くまでに十三回黒猫が前を横切っている。 「なぁ兄貴、やっぱりやめとこう。宇宙人だってこんなところに住みたくないって」 「そうなのかィヲェスッァフヴ?」 「いえ、ダンボールハウスよりはこっちの方が……家賃安いし」  僕ならダンボールハウスを選ぶぞ。よくわかんないけど、もしかして幽霊とか怖くないのかもしれない。何せ宇宙人だからな。 「それじゃあ、これが鍵ね。私は外で待ってますので」  どうやら不動産屋のオジサンは中を案内するつもりなど更々ないらしい。そうとう怖い目にあっているんだろうな。 「よーし、俺に続け!」  鍵を受け取った兄貴が先陣を切り、宇宙人を引き連れて玄関へと向かっていく。なんと男らしい。一方で僕と宗太郎の男組は、チワワのように震えていた。 「先行ってくれよ友希」 「お前が先だ。それでも半分妖怪かよ」 「妖怪だって怖いもんは怖いんだよ」 「ならほら、塩爆弾一個やるから」 「一個だけかよ! もっとくれよ。俺だってそれ作るの手伝ったじゃん! 給料代わりに寄こせ!」 「断固拒否する! アレはボランティアだ」 「いつまで揉めてんだよヘタレコンビ!」
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