シーン5

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 兄貴に怒られ、渋々僕らも玄関へ向かった。途中で宗太郎が「いいこと思いついた!」と言って自分の頭上で塩爆弾を破裂させた。塩が効くのは幽霊であって、妖怪は平気なんだとか。ちなみにうちの兄貴には塩が効く。あとお経や御札なんかも効果抜群だ。一度死んでいることが原因らしいのだけど、イマイチ納得しきれない。 「ふっふっふ。これで俺は清められた」  そんな台詞を吐き、宗太郎は一足早く兄貴達と合流した。そこで兄貴に「塩くせーから近づくな」と邪険にされて涙目になっている。ざまぁみろ。  でも悪い案ではないと思ったので、塩爆弾の封を解いて少量だけ服にかけておいた。ま、気休め程度にはなるだろう。  兄貴がキーを差し込み回すと、スーパー曰くつき物件への入り口の施錠が外れた。そして嫌々ながら、僕は他の面子と共にその内部へと足を踏み入れた。  ◇  埃まみれの室内。天井にはアチコチで蜘蛛が巣を作っていて、全体的に薄暗い。スイッチを押してみたが、やはり電気は通っていないようだ。    お化け屋敷のような廊下を進むと、ダイニングキッチンに出た。不動産屋のオジサンの言う通り、家具家電は一式揃っているみたいだ。だけど、使い物になるかどうかは定かではない。  怖がりだと自負している僕は、これまでの人生で心霊スポットへ肝試しに行ったことなど勿論ない。誘われることは数回あったが、それはもう見事なまでに完璧な嘘をついて誤魔化していた。だからこういう場所に立ち入るのは初めてなんだけど……何というか、とても異様だ。長く居ると気分が悪くなりそうな気がする。  入居者の死を境に、生活が止まった家。来る者を拒み続ける怨念が支配するテリトリー。立ち入るなという無言の警告が、ずっと頭の奥底で鳴り響いているような、そんな居心地の悪さ。 「見ろよ友希! でっけー蜘蛛捕まえた!」  そんなのお構いなしなのが、うちの兄だ。 「ほらィヲェスッァフヴ。蜘蛛だ!」 「蜘蛛より部屋を見て回ろうよ」 「それもそーだな」  蜘蛛を放り投げて、兄貴は宇宙人と肩を組みニカリと笑った。
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