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「ぬうぅ……」と唸る幽霊。西田は依然として景気良く燃え上がっているので、苦しそうな顔で畳にへばりつきながら兄貴を恨めしそうに見上げている。怖い。特に目が。
だが、そんな目が一変して涙で潤み始めた。
「ひっく……えぐっ……」
そしてついにはすすり泣き始めた。あーあ、泣かせちゃったよ。これには兄貴もたじろいている。女の涙に弱いなんて、ますます男前だな。
「お、おいおい! 泣くなって!」
「だってだって、私も本当はここから出たいけど出られないし、でもまだ成仏するわけにはいかない理由があるのよ! そんな状態で十年間も過ごしてたんだから、多少の悪霊化くらい大目に見てもいいじゃない! それなのに! それなのに力づくだなんて酷すぎるよぉぉぉ!」
さっきまでと明らかにキャラが違う。そんでもって、ここまで泣かれると何だかうちの兄貴が悪い奴に見えてくるから不思議だ。
「兄貴の鬼畜外道ー」
「うっせー! 仕方ないだろ。悪霊を野放しにしたままじゃ宇宙人はここに住めないし、仮に住んだとしても悪霊と同居してるんじゃご近所との親密な関係だって築けないぞ」
幽霊云々関係なくこんな未確認星人と親密な関係を望むご近所さんも少ないとは思うが、敢えて口には出さない。
幽霊は絶えず泣き続けている。これじゃ不憫過ぎて塩ぶっかけることもできない。住職に相談するのがベストだろうと思い、僕がポケットの携帯電話に手を伸ばした。
宇宙人が幽霊に助け船を出したのは、その時だった。
「一緒に暮らしませんか?」
霊が涙を止め、我が耳を疑っているような表情で宇宙人を見上げる。
「こんな広い家に一人は寂しいの。だからアナタが悪さをやめて一緒に暮らしてくれると、ワタシは嬉しい」
「……いいの? 私はアナタにバニシングポルターガイストを食らわせるような女なのよ。そんな私を許すどころか、一緒に住んでいいと言ってくれるの?」
「うん。こんな宇宙人でよければ」
惑星をも越えた友情に、兄貴と宗太郎が静かに涙している。確かに心温まる光景ではあるけれど、絵面がシュール過ぎて僕は泣くまで感動できない。心が荒んでいるのだろうか。
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