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ガチャン。
「ミッションコンプリート」
時間にして、僅か五秒。プロの御技だ。まるで前に部室棟一フロア全部の鍵を開けたことがあるかのような手際の良さ。敢えて追求はしない。もうこれ以上桜子さんのイメージを壊したくはないから。
ともかく、侵入成功だ。
中はやはりというか当然ビデオデッキだらけ。全壁面余すところなく積み上げられたビデオデッキで塞がれており、窓からの光も遮断されている。何だかちょっぴり異世界みたいだ。
一瞬テレビがないんじゃないかと思ったが、ビデオデッキに埋もれるような形になっている二十型のブラウン管テレビを一台発掘することができた。
「よーし、早速観ようぜ」
兄貴が強引にテレビを引っ張り出すと、絶妙なバランスで上に積まれていたデッキの山が崩落した。その崩落した山から、適当なデッキを一つ宗太郎が拾い上げる。
「お、おい! もっとそっとやれって! 一応人様の持ち物なんだぞ! ねぇ桜子さん?」
「部長。コンセントって全部室共通でこの辺にありますよね?」
「うん。そうだけど」
答える途中から、桜子さんはビデオデッキの山を掘り始めた。それはもう、無駄に地面を掘り起こして遊ぶ犬のように。掘り起こされたデッキの数々は次々と床に叩きつけられていく。
僕はそんな彼女から、そっと目を背けた。
その後、僕を除く三人の連携プレーによりビデオの再生環境が整った。桜子さんが無駄に赤面してハアハア言いながらデッキにビデオを挿入する。それはまるで、アダルトビデオを初めて観る思春期の少年のように。
そしてついに映像がテレビ画面に映し出される。定番だけど最初は砂嵐だった。それが突如止まったかと思った途端――画面一杯に張り付く、男の顔が浮かび上がる。
「いやぁぁぁァァァッ!」
非常に情けないことに、今のは女性陣ではなく僕の悲鳴だ。パニックになりながら逃走を図り、結果扉に激突した僕は惨めにも仰向けにひっくり返った。
「何やってんだよビビりー。大丈夫だって。いざとなりゃ俺が退治してやるよ」
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