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「ふははっ! 逃げようとしても無駄……え? いいの!?」
「いいよ。私なんぞが人質になることでキミ達の望みが叶うなら、笑顔で囚われの身となるよ」
良い人を通り越してキモい。それでも好都合には変わりないので、ファンクラブのメンバーは受け入れることにした。
「そういえば、生徒会室に手頃なロープがあったんだ。それで私を縛るといいよ」
「いやいや、そこまでしてもらわなくても! ロープくらいはこっちで用意させてもらいますから!」
「まぁそう遠慮せずに。お手数ですが縛ってもらっても構いませんか?」
「そ、それは勿論……」
「じゃあ決まりだね」
春重は存在しない架空の髪の毛をつるんとかき上げると、ロープを取りに生徒会室へと戻っていった。
キモい善人が戻ってくる間のファンクラブメンバーの気持ちは、間違いなく一つになっていた。
「人質選ぶの間違えた」
だがもう、後の祭りであった。
◇
ところ変わって、文芸部部室棟。ここにも映画製作部に対して怒りの炎を燃やす男達がいた。
ビデオデッキ研究部である。
放課後早々部室を訪れ、今日も愛しのビデオデッキ達を愛でようと足を踏み入れた彼らの目に飛び込んできたのは、鉄クズと化した機械の残骸だった。
五人の部員はすすり泣きながら掃除を開始した。何故か大量の塩まで撒かれている部室を片付けながら思うことはただ一つ。犯人は一体誰なのかということだ。
ここで部員の一人が、残骸の中から何かを拾い上げた。それは生徒手帳で、顔写真と名前が入っている。
「犬鳴桜子だと? 彼女がやったというのか」
どうやら桜子がコンセントを掘り出すのに夢中になっていた時、気づかないうちに落としてしまっていたようだ。
「何故マドンナである彼女がこんな真似を?」
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