シーン6

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 太陽が半日かけて天に大きな弧を描き、西の方へと消えていく。去り際に街をオレンジ色に彩る太陽の粋な演出を眺める度に、今日も一日が終わるんだなと僕は思う。  こんな素晴らしい帰路を恋人と歩けたのなら、どんなにロマンチックだろうか。しかし残念なことに、僕の隣を歩くのは異性ですらない。それどころか、人間ですらない。半分だけだけど。 「ちぇー。俺も泊まりたかったなー」  歩を進めながら天を仰ぎ、茶髪チャラチャラ尻目野郎こと宗太郎がボヤいた。 「男子は駄目なんだとよ。今宵は女子三人で引っ越し祝いパーティーなんだとか。つーか、兄貴は男だろ。都合のいい時だけ女になるんだよな」 「何馬鹿言ってんだよ。愛希ちゃんは女の子だぞ! 可憐な美少女だ!」 「はいはい。わかったわかった」  宗太郎の相手をするのも面倒なので、納得しておくことにした。  宇宙人と地縛霊との間に友情が生まれる奇跡的な展開があったあの後、宇宙人は外で待っていた不動産屋のオジサンに即契約を申し込んだ。言語は問題ないがまだ書くのは苦手だというので僕が代わりにペンを取ったのだが、名前でいきなり躓いた。覚えてねーよ。あんな長いカタカナの羅列。  書き出すことができず困っていると、宇宙人が「佐藤花子でいいわよ」と耳打ちしてきた。後から聞いた話では、自分の名前は中々覚えてもらえないので佐藤花子と名乗っているそうだ。  こうして晴れてダンボールハウスからの引っ越しに成功した宇宙人。全員総出で掃除した甲斐もありある程度借家が綺麗になったところで、僕らは追い出されたわけだ。 「俺、今日は泊まってくから。女の子限定の引っ越しパーティーを開催する! 思春期の飢えた狼のお前らは帰んな。何しでかすかわかったもんじゃないからな」  僕達を玄関から放り出したあの時の兄貴の言葉が頭を過り、眉間にシワを寄せた。宇宙人や幽霊に手を出すわけないだろ。  でもまぁ、幽霊の首崎さんは結構美人だった。掃除時間中に見る見る毒気が抜けていって、強制的に帰らされる頃にはまるで別人のようになっていた。惑星を越えた友情パワーは侮れないな。とても「ローリングうらめしやー」とかやってた人と同一人物とは思えない。
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