シーン4 #2

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「そんで」兄貴が問う。「深い事情って何だよ?」 「うーん。話してどうこうなるもんではないんだけどね。ま、いいか。お願いしたいこともあるし」  それだとまるで話を聞いた後、僕達は必ずそのお願いを受け入れないといけないように聞こえるぞ。なら無理にヒデオさんの事情を探る必要もないと思ったんだけど、時すでに遅しだった。 「それでは、こちらのVTRをご覧ください」  司会者のように幽霊が言うと、画面は別の映像へと切り替わった。  ◇  それは、今から十年ほど昔の話。  あるところに、新婚ホヤホヤの夫婦がいました。六年の交際期間を得てゴールイン。借家を借りて二人の愛の巣とし、新しい生活がスタートしました。  結婚生活は順調そのもの。ですがある日、夫婦関係に亀裂が入る出来事がありました。  旦那さんが隠していたエッチなビデオが奥さんに見つかってしまったのです。  即刻処分してくるよう命じられた旦那さんは、夜に原付バイクで家を出ました。奥さんにとってはゴミでも、旦那さんにとっては独身時代を充実なものにしてくれた思い出深い名作の数々。そこらのゴミ箱に放り込むなんて雑な廃棄はできず、どうしたものかと考え込みながらバイクを走らせていました。  それがいけなかった。考え込み過ぎていたがために赤信号に気づかなかった旦那さんは、一台のトラックと衝突。――気がついた時には、捨てようとしていたビデオテープの中に封じ込まれていました。  後に彼は、こう語っています。 「コレはアダルトビデオの呪いだと思うんですよ。大切にされた物には魂が宿るといいます。きっと捨てようとした私を事故に合わせて、テープの中に封じ込めたんでしょう(プライバシー保護のため、音声は変えています)」  かくして彼はビデオ内に住み着くことを余儀なくされ、巡り巡って今はとあるレンタルビデオ屋の陳列棚に並び、物好きな誰かが借りてくれるのを密かに待っているのだそうです。
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