シーン4 #2

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 ◇ 「と、いうわけ」  画面が再びヒデオさんに切り替わった。あのVTRは何だとか、ビデオの呪いっておかしいだろとか、音声変えても全然プライバシー保護の意味を成してないじゃんとか、ツッコミたいところは山ほどある。 「おいヒデオ」  僕が満を持してツッコミを入れようと構えたところで、兄貴が一歩前に出た。くっ、先を越されたか。まぁいいか。たまにはツッコミ役を兄貴に譲ってあげよう。僕だって別に好き好んでツッコミ役を買って出ているわけじゃないし。 「お前、アダルトビデオの中に封印されるとかメッチャ幸せじゃん」 「そこ!?」  反論はしないよ! 反論はしないけど、仮にも女の子が言っていい台詞じゃないだろ! 「まぁ、皆そう思うよね。でも、実際はご覧の通りだ」  ヒデオさんが画面から離れると、そこにはただ真っ白なだけの空間が広がっていた。空も土も植物も家も、何もない。 「なーんにもないんだよ。だから物凄い暇でね。レンタルしてくれる人も少ないし。今回だって半年ぶりだからね」 「それ以前に、ビデオの中に封じられたのって本当にアダルトビデオの呪いなんすか? 何か腑に落ちないというか、納得できないんすけど」 「事実だと思いますよ」  僕の疑問に答えたのは、オカルトマニアの桜子さんだった。 「物は百年近く経てば妖怪変化するといわれています。それらは共通して『付喪神(つくもがみ)』と呼ばれています。当て字で『付く』に『喪中の喪』と書きますが、正確には百年近くという歳月や数多の種類があるという意味合いから、九十九に神と書き『九十九神(つくもがみ)』と読みます」 「うーん。でも、それは百年近く経って妖怪化するものなんでしょ? ヒデオさんのビデオテープは、精々数年だと思うんだけど」 「ヒデオさん。捨てるために持ち出したテープはいくつでしたか?」 「……五十本」  そりゃ奥さんキレるわな。よく隠し場所があったもんだ。
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