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「部長、これで解決しました。テープ一本につき二年が経っていれば、合わせて百年近くになります」
「年数を数で補ったってことか。全てのテープの想いを一本のテープに集中させてヒデオさんを封印したとか、そんなところなのかな?」
「言われてみれば、確かにオレが封印されたのは一番のお気に入りビデオ『メガネ女教師~禁断の放課後~』だった」
聞いてねぇよ! コイツは絶対にサラヤンには会わせられないな。
「付喪神についての続きですが、百年というのはあくまで目安です。もっと早いものもあれば遅いものもありますし、そもそも妖怪変化をしないものがほとんどです。条件やその物の作り手、どんな人に使われどんな風に捨てられたかなど、状況によって色々なパターンが生まれるんですよ。例えば『化け古下駄』という下駄の付喪神は宮城県に逸話があって」
「さ、桜子さん! とりあえずその辺で」
「え? あ! ごごごごめんなさいっ! 私ったらつい熱くなっちゃって」
赤面してあたふたしている。オカルトマニアという点を差し引いても、やっぱり可愛いなぁ。それにしても、予想以上のマニアックっぷりだ。今後解説役として頭角を現してきそうだな。
「ところで、成仏はなさらないんですか?」
幽霊相手にそんな丁重な質問する人、始めて見たよ桜子さん。しかし、ヒデオさんはもう十年もの間ビデオテープに封印されているんだよな。こんな何もない空間で一人だなんて、普通気が狂うぞ。そこは幽霊だから何かしら大丈夫な理由があるのかも知れないけど。
「成仏しようにも、未練がある霊は基本成仏できないからなぁ。特にオレみたいな特殊な例は、迎えの天使すら来てくれないし。あ、そうそう。成仏で思い出したんだけど、お願いがあるんだよ」
ヒデオさんが指パッチンすると、画面に明朝体で住所が表示された。さっきはVTR流してたし、色々と便利なんだな。
「それで、この住所って何処っすか?」
「オレが生前住んでた借家だよ。もしかしたらそこに、まだ妻が住んでいるかもしれない」
それは――残念ながら望み薄だと思う。今画面には住所が表示されているので、ヒデオさんの表情は伺えない。だが、声からでも十分に望み薄だという感情が伝わってきた。
ヒデオさんの未練は何なのか。そんなの奥さんを残して死んでしまったことに決まっている。でも、多分奥さんはもうこの住所には住んでいないだろう。
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