33人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
死別した夫との思い出がこびりついている家に住み続けるのは苦痛を伴うだろうし、一人身となったならわざわざ借家に住む必要性もない。もし専業主婦だったのなら、仕事を探して結果的には引っ越さなければならなくなっているかもしれないし、ひょっとしたら再婚してる可能性だってある。
それでも、会いたいんだろう。自分が成仏するためでもあり、愛妻に詫びるためでもあり。
「……わかりました。僕が責任を持って探してきます。別に遠いところじゃないっすから」
ハッキリと宣言すると、僕は携帯電話のメモ帳機能でその住所を打ち込んだ。「もういいですよ」と伝えると、画面が丸顔のヒデオさんに切り替わる。彼の顔は、柔らかく綻んでいた。
「やっと頼みを聞いてくれる人に出会えた。今までレンタルした人達は、皆気味悪がってすぐに返却しちゃうから」
「そりゃそうだ」
ははは、と兄貴が笑う。その隣で桜子さんも上品に微笑んでいた。そんな桜子さんと目が合うと、彼女は僕へ歩み寄って来た。
そして、耳元で「部長って優しいんですね」
いいぃぃぃぃやぁっっっほぉぉぉぉぉぉぉぅうっ!
「い、いやぁ、困った人を助けるのは当然のことだよ」
「ま、友希じゃイマイチ頼りになんねーだろうけど、俺がいるから安心しな」
兄貴がそんな僕に対して失礼なことをテレビに向かって言うと、ヒデオさんは「よろしくお願いします」と頭を下げた。
ここらでそろそろ僕らも昼食を摂らないとマズイ時間になったので、ヒデオさんに別れを告げて桜子さんがデッキからテープを取り出した。その間に僕と兄貴はビデオデッキの山から宗太郎を引っ張り出した。どうにも途中から声も姿もないと思っていたら、ずっとここに隠れてビクビクしていたようだ。半分妖怪が聞いて呆れる。
「お前、僕よりビビりじゃん」
「ち、ちげーよ! これはその……愛希ちゃんの母性本能をくすぐる作戦だ!」
「残念だったな。兄貴に母性本能はない」
父性本能ならあるかも。
そうして僕らは、何事もなかったかのようにビデオデッキ研究部部室を後にした。罪悪感がないとは言わないけども。
最初のコメントを投稿しよう!