シーン8 #2

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「ごめんなさい。私のせいで……」 「いや、謝るのは我々の方だ。キミが我々と同じビデオデッキ派だったとはつゆ知らず、不良をけしかけるなどという姑息な手段を用いてしまった。申し訳ない」  ビデオデッキ派というワードが引っかかった桜子だったが、すぐに自分が持っている紙袋の中身を見てそう思い込んでいるのだと察し、「ビデオデッキ最高ですよねー」とその場凌ぎの笑顔を見せた。  続いて、ファンクラブの面々が次々とその重たそうな身体を起こした。口々に「女神は?」「マドンナは無事か?」と周囲を見渡している。 「あ、大丈夫です! 私はこの通り全然大丈夫です!」  元気に答える桜子の姿を視界に捉えると、皆に笑顔がこぼれた。しかしそれは、すぐに暗い表情へと移り変わる。 「どうされたんですか?」 「情けないのです。我々はアナタのファンクラブでありながら、アナタを守れなかった。ファンクラブ失格です」 「そんなことありませんよ」  桜子は、ナンバーワンを始めとするファンクラブの全員に笑顔を見せた。 「皆さん、とてもかっこよかったです」  この発言に鼻血を噴く者、雄叫びを上げる者、興奮して地面を殴りつける者など、ファンクラブの面々はキモいリアクションを見せた。だが、今日は桜子も彼らの行動に引くことはない。 「私に何かお礼ができればいいんですけど」 「お、おおおお礼だなんてとんでもないでございますですよ!」 「まぁそう言わずに。あっ、こんなのはどうです?」  桜子は人差し指をピンと立て、ファンクラブのメンバーに提案した。 「今日から『公式』を名乗ってもらって構いません」  オタク達の歓喜の声が、裏通りを駆け抜けた。痛みも何処かへ吹っ飛んでしまった彼らは、立ち上がるとフォーメーションを組み喜びの舞(オタ芸)を踊り始めた。  体型からは想像もできないそのハイテンションかつハイスピードなダンスに若干笑顔が引きつる桜子だったが、しばらくして一つの疑問点に気がつく。 「あれ? 元番長さんがいない」  ◇ 「くっそ! 何だったんだあのオカマ連中は!」  悪態をつきながら路地を駆け抜ける一人の不良・マムシの東堂。不良達のボスにして唯一の生存者である彼は、仲間達を見捨てて正体不明のオカマ軍団から必死に逃げていた。
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