シーン8 #2

1/23
前へ
/31ページ
次へ

シーン8 #2

 不良達がざわめき始める。ここで桜子は、女の子の正体にようやく気づいた。 「望ちゃん? 望ちゃんだよね!?」 「そーだよー。変なことされてないかい桜子ちん?」  ニコニコ笑う彼女の正体は、喫茶マオカ唯一のオアシスである望であった。いつものウエイトレス姿のツインテールとは違い夜のお仕事の格好をしていたため、すぐにはわからなかったのだ。 「駄目っ! 逃げて望ちゃん!」  桜子が叫んだ頃には、すでに数名の不良が殴りかかっていた。望はそれでもなお笑う。 「だいじょーぶだよぉ。だって店の近くで騒いでる時点でさぁ」望が人差し指で上を指す。「てんちょー、キレてるから」  直後に望の背後からヌッと現れた二本の太い腕が、不良の頭をガッチリ掴む。そのまま文字通り放り投げられた不良は、ゴミ捨て場に落下し動かなくなった。  容姿に反するひらひらドレス姿をした元軍人の黒人オカマ・オカマスターは、悪魔の形相で指をバキボキと盛大に鳴らしていた。 「何だありゃあ!?」 「オッ、オカマだぁ!」  その余りの迫力と気持ち悪さに逃走を試みた不良二人を前方で待ち構えていたのは、薄らハゲにセーラー服という出で立ちの体毛の濃いオカマ。そのゴリラのものと見間違いそうなほど濃い腕毛の生えた剛腕によるラリアットを浴び、ヤンキーは呆気なく昇天する。  源氏名・体毛フサ子。趣味はプロレスの四十八歳。パチンコ店経営。たまに喫茶マオカ(夜の部)で働いている。 「こっちにもオカマがいるぞ!」 「逃げろぉぉぉ!」 「逃がさないわよん」  現れたのは、また別のオカマ。やけにしゃくれた顎には、少しだけ伸びた硬そうな顎髭がびっちりと生えている。しゃくれオカマは不良の一人に背中から抱きつくと、顎を押し当てて上から下へ引き下ろした。  硬い顎髭に引き裂かれる不良の服。背中から血飛沫を上げた彼は、力なく地に伏せた。  源氏名・顎髭ジョリ美。喫茶マオカで昼は調理、夜は接客として働いている。電動髭剃りを月に五回以上破壊する猛者。  他にも続々登場するオカマ達。その数、総勢十六名。一方的にやられていく不良達を眺めていた桜子は、ふと我に返り誰にというわけでもなく尋ねた。 「ひょっとして、OKM48!?」 「そうよ」  答えたのは、イケメンの不良をひっ捕らえて尻を撫でているオカマスター。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加