第一章 怪しい浪人

5/7
前へ
/36ページ
次へ
男は源治の問いかけに耳を貸すことなく黙々と定食を食べている。源治もしばらくじっと男の様子を伺ったまま黙っている。店内が異様な緊張感に包まれていた。堪り兼ねたお駒が男の茶のお替りを注ぎに来た。すると源治が再び男に話し掛ける。 「俺はこの辺りを見回っている同心で源治って名だ。お前さん名前は」 男は相変わらず黙ったまま定食の最後の一口を食べ終えるとお駒が注いだ茶を一気に飲み干す。源治は男の刀に目をやりながら際どい問い掛けをする。 「えらく立派な刀だな・・・随分人を斬ったのか」 源治の歯に衣着せぬ問い掛けにお駒が一瞬凍りついた。そんな源治の問い掛けに男は目を瞑ったまま静かに湯飲みを卓に置き鼻から大きく息を吐き出した。しかし相変わらず話す気配はない。源治は男の様子に少し苛立ちを覚え卓に肩肘を付き少し身を乗り出すようにしてさらに質問を続ける。 「この町に何の用だ」 すると男は静かに目を開き源治の目を一点に見つめ口を開いた。 「人を探しにここへ来た」
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加