第一章 怪しい浪人

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その言葉を聞いた源治が話を続ける。 「そうか人探しか。探してる奴の名は」 男は源治の目を見つめたまま黙っている。源治が質問を変える。 「言えねえってか。ふっ、だったらそいつの風貌は」 それも言えぬとばかり源治に目で答える男。すると源治が鼻で笑いながら答えた。 「町方の同心相手にだんまり決め込むとはいい度胸だ。だがその面はよく覚えとくぜ。もしこの町で下手な仕事しようって腹なら考え直すんだな」 源治はそう言うとじっと男の目を睨むように見つめていた。男はゆっくり瞬きをして源治との目を外すと定食代の勘定を卓に置き刀を持って店を後にした。男が店を出た後も源治は座ったまま緊張感を漂わせながらじっと一点を見つめていた。すると、その緊張感を破るように怒ったお駒が怒鳴るように源治に突っかかった。 「全くお客さんになんてこと言うんだよ!!」 お駒の売り言葉に源治が思わずやり返す。
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