第一章 怪しい浪人

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「ふん、あんな人相の悪い奴が目の前にいりゃあ黙ってられるか」 熱くなった二人の言い争いが始まる。 「だからって、刀を見て随分人を斬ったのかなんて質問するかい普通」 「馬鹿野郎。浪人みたいな格好のうえ帯刀しておまけにあの風貌だ。疑わねえほうがおかしいだろう」 「ふん、うちは飯屋なんだから色んな客がいるんだよ。そうやって人を見掛けで判断するんじゃないよ。全く」 「お前が男なら見境なく色目使って客寄せするからろくな客が来ねえんだろうが」 「私がいつ客寄せに色目使ったって言うんだよ。ちょっと自分がもてないからって嫉妬して来る客来る客睨みやがって」 「なんだと!!」 お駒の険のある言い方に源治はカチンときて卓を叩きながら思わず立ち上がる。そんな源治とお駒の言い争いをなだめるように年上の女従業員が割って入る。 「二人ともそのあたりでおよし。奥で小見さんが寝てるのを忘れたのかい」 そう窘(たしな)められた二人は思わず唇を噛み締めながら黙り込んだ。 源治が睨むような目で店の入り口を見つめながら心の中で呟いた。 (あのやろう、今度見かけたら必ずひっ捕まえて何者か白状させてやる)
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