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すると少しして内庭に一塵の爽やかな風が吹いた。
「上様」
御庭番、銀駒が城下の様子を含めた情報を報告にやって来た。銀駒の浮かぬ様子を読み取った吉宗はすぐさま銀駒に言葉を発した。
「銀駒か。その様子からすると小見はまだ目覚めぬようだな」
的を射た吉宗の言葉に銀駒も一言返事を返す。
「はい」
「闇鬼(くろ)を操る者の正体がいまだ掴めぬ以上、俺もうかつに城を離れることが出来ぬ」
銀駒は吉宗の言葉をただ黙って聞いていた。少しして、また吉宗が口を開く。
「しかし小見に万が一のことがあれば、要を失ってでも俺が動かねばなるまい。それは銀駒、お前も覚悟しておいてくれ」
銀駒は吉宗の言葉に思わず固唾を飲んだ。
「ただ京へ遣わした者が戻ってくればまだ望みはあるやも知れぬ。例え朝廷からの返事がどのような知らせであったとしても、ある男をこの江戸城まで連れてくることが出来れば・・・」
銀駒は吉宗のその言葉を訝しがりながら黙って聞いていた。
(京に遣いを・・・一体、何のために。改暦の権限を巡って争っている今、朝廷が徳川に力を貸すとは考えにくいが・・・上様は何を考えておられるのだ。ある
男とは一体・・・)
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