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「それに、“神話を纏うお姫さま”なんていうあの子のことが我が国民に知られてしまったら、物語を忘れたこの国は、いえ、この世界全部がきっと乱れてしまいますわ」
王妃さまは、暖炉のまえにいるというのに、まるで、氷の上にはだしで立っているかのようにからだをふるわせました。
「ふむ、ならば、あの子にはより一層何もあたえぬようにしよう。たあいもない物語はおろか、かけるべき言葉も、我らが注がねばならぬ愛情も、この世界すらもだ」
やさしい王さまにはめずらしい、とてもきびしい言葉でした。でも、それは、愛する我が娘を思っての言葉だったので、王妃さまがぷんぷんとおこることはありませんでした。
「そして、ほかの世界の妖精、とやらをなんとしてでもさがし出すのだ」
「そうですわね、それがあの子のためですもの。城の臣下などはあの子をころしてしまえ、と言っていますけど……」
顔をあげて、ふあんそうに王さまをみつめる王妃さま。でも、王さまはあまりにもうろうろしていたので、暖炉の火のひかりがとどかないところまであるいていました。
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