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完全に気圧されてしまっている私に矢野さんは畳みかけるよう話す。 「だけどね、キミだけじゃないんだよ。柴崎は綾ともすごく仲がいいって……知ってた?」 「……」 何も答えない私に矢野さんはクスッと笑う。 「じゃあさぁ、俺と綾の事はどう思う?」 「え?」 「あの日、俺達を見ていたでしょ?」 そう言って、矢野さんは私を嘲るような笑みを向けた。 なっ、何で? 私が見てた事、この人は知っているの? 驚愕する私に矢野さんは愉快で堪らないって顔を見せた。 「俺さぁ、綾にはキミが居た事を気づかれないようにしたんだよねぇ」 あの日……私が二人を見つけた時、確かにこの人は後ろ姿だった。 ああ、そうか。そういう事か。 私が居ると知ったこの人は、自分を盾にして川田さんの視線を遮り、川田さんに私が居る事を気づかせないようにした。 そして私が見ている事をわかった上で、川田さんを抱き締めた。 全部……確信犯だったんだ。
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