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野島さんも皆、矢野さんの言葉を信じたのだろう。 私が不自然に立ち上がった事に疑問を持たず、それどころか私が静かに立ち上がらなかったせいで、打ち合わせを一時中断させたという結果になってしまっている。 違う、そうじゃないと言えばいいが、それを言えない私は気まずい思いを抱えたまま、無言で椅子に座った。 それよりも…… なんなの、このヒト? 私が動揺して立ち上がっても矢野さんは咄嗟に取り繕り、意図も簡単に何も無かったように振る舞う。 それだけこのヒトは冷静沈着で……策略家だ! やだ! この人、怖い! 嫌悪感と畏怖。 怯える私の心を見透かすような視線で私を見る矢野さんの口元は嘲笑う笑みを浮かべていた。 そしてまた顔を私の耳元によせて、小声で囁いた。 「柴崎をヨロシクね」 「──っ!!」
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