9

19/31
前へ
/346ページ
次へ
矢野さんが去ったからだろうか。 「今日はここまでとして、また後日、改めてお話をしましょう」 柴崎 圭が打ち合わせの終了を告げた。 その言葉で私はやっとホッとした。 ああ一刻も早く、ここから立ち去りたい。 気持ち悪い。 気持ち悪くて、(たま)らない。 「川田」 と言った柴崎 圭が川田さんに目配せする。 「失礼します」 と言って川田さんは席を離れたが、すぐに複数の紙袋を持って戻って来た。 「本日もご足労頂きありがとうございました。当ホテルからのささやかなプレゼントをどうぞお受け取り下さい」 柴崎 圭の言葉に従うように、川田さんが紙袋を野島さんから順番に渡して行く。 次に手渡されたのは笹島さん。 そして川田さんが私に近づいてくる。 近づくヒールの音。 カウントダウンのように聞こえて、耳触りだ。 耳障り過ぎて……吐き気がする。 吐き気で(たま)らなく……気持ち悪い。 あまりの気持ち悪さに、自分の身体がどんどん冷えていくのがわかった。 だけど、我慢しなくちゃいけない。 我慢しようと顔を下向けて(こら)えていると、川田さんのハイヒールの先が目に入った。 川田さんが私の側に来たんだ…… 私がゆっくりと顔を上げて、川田さんを見る。 私に紙袋を手渡そうとした川田さん。 その手を止めて、私の顔を見て言った。 「野々村さん、顔色が悪いですよ?」
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12502人が本棚に入れています
本棚に追加