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俺の正面にある扉が開くと、中から男が現れた。
その風貌に見覚えがある。
真っ黒な髪、あの日と色違いのチェックシャツ。
すぐに分かった。
こっちを向いたまま棒立ちして動かなくなる男は、どうやら俺達の存在に気付いたみたいだ。
俺は目つきを変えて、射るように見つめる。
ここからだと表情までは分からなかったが、まだ記憶に残っている男の面を被ったような無表情を思い浮かべる。
その時、背後の扉がまた開くのが見えた。
肩の下まで髪があって、すぐにそれが女だと分かる。
男がそいつの腕を引くと、女の顔がこっちを向いた。
「……」
扉が開いた瞬間から予想はしてた。
堀内だった。
堀内と男が向き合うと、2人の顔の距離が縮まって――。
目に映る光景に、腹の底に感じていた緊張は弾けて、酷く黒い不快心がじわじわと滲み出てくる。
全身が冷えるような。目の裏側で、軽い目眩が起こる。
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