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カチャ、とメガネのフレームを正す音が耳に入ると、フリーズして止まった思考が現実に引き戻される。
「やっぱり女って、みんなあんななのな……」
ポツリと言葉を残してその場から離れる俺の足は、校舎の入口の方へと向かう。
2枚のガラス扉が見えてくると徐々に早歩きになって、校舎に足を踏み入れた瞬間、地面を蹴って走り出していた。
あいつと、そんな関係だったのか?
黙って裏でこそこそ。
やってることは、俺の母親と変わらないじゃないか。
「っ――」
“このビッチが”
そう吐き捨ててやろうと腕を振る俺の目に、のんびり向こうから歩いてくる男の姿が映った。
足のスピードを緩めると、重たげな瞼の奥から覗く真っ黒な瞳と目が合う。
男は表情を崩さずに、俺に向かってこう言った。
「どうして怒ってるの?」
俺が足を止めると、靴の底が鳴って、それが長い廊下に響く。
口を開くが、頭の中で言葉がまとまらず、眉を寄せて男を見つめた。
“どうして”?
男の顔を見た瞬間、憎悪の念が湧き起こった。
なんで、ここまで走ってきた?
俺は、堀内に対して腹を立ててんだろ?
男を目の前にして、どうしてこんなにも――。
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