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大学の外で、あの男を見つけた時の怯えた顔を見ていなかったら、俺は今頃、手を出すよりも酷い言葉を吐き捨てていたんだろうか。
自分を好きだと言っていた筈の女が、他の男とキスをしている光景を目の当たりにして、それでも、この人は母さんと違うって思えるのは怯えた顔を知っているからか?
もしあの場面を見ていなくても、自分の腕の中で体を震わせている堀内を、それでも好きだと思えたかなんて分からないけど。
ただ、今言えるのは――
「堀内……なんでこうなるまで言わなかったの」
やっぱりアンタも俺の母親と一緒だ。
女はみんな一緒だ。
そう、一瞬でも思ったのに。
責めてやろうって思ってたのに。
俺の頭の中は今、どうしたらこの人の震えが止まるんだろうって、その方法を探すのでいっぱいだ。
「別れますか……?」
か細い声が聞こえて瞼を上げる俺は、堀内の腕を掴んでそっと体を離す。
まだ口を覆っている堀内の声はくぐもっていて、でも、確かに言ったよな?
“別れる?”
それは、俺の口癖だ。
いつの間にか口にしなくなった口癖。
俺のだったのに。
なんでこんなに苦しいんだろう。
まるで、胸を圧迫されたような。
堀内はもう何度も、こんなに苦しかったのかな。
これまで何度、俺の言葉や態度がこの人の胸をえぐってきたんだろう。
その度にこんな気持ちになって、へらへら笑ってたの?
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