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肌をつまんでしまわないように気を付けて、涙で濡れた頬に貼り付いた髪を指先で退けてやる。
女に触れることなんて、一生ないと思ってた。
「堀内のことは、暫く付き合ったらアンタの方からもう無理だって言ってくるだろうと思ってた」
「っそんな、絶対ないです」
堀内がぎゅっと目をつぶると、ポロポロ涙の粒が頬の上を転がる。
「馬木くんは、私の憧れです。私に無いものを持っていて、私にたくさん幸せな気持ちをくれます」
今度は、心臓がきゅっと締め付けられる。
俺、なんにもしてないのに、それでも幸せだって言ってくれる人が自分を好きだと想ってくれてんのって、凄いよね。
「ヒック――私、恵子ちゃんに言えなくて、誰にも言えなくて、逃げることもっ――出来なくて。本当にごめんなさい」
堀内の声が震える度に、喉が塞がるようないじらしさを覚える。
ねぇ、いつからあいつに呼び出されてた?
「ヒッ――馬木くんと付き合い始めて、少し積極的になったねって褒めてくれて、喜んでくれて。っだから、そんな恵子ちゃんには言えなくて」
言えなくて、俺にも言えなくて、そうやって丸まって1人で耐えてたの?
手の甲で涙を拭いてやるが、拭っても拭ってもこぼれた。
自分に対して深いため息を吐くと、俺はその場に座り込む。
「う、く」
俺は立てた足に肘をついて、眉を垂らして、しゃっくりを我慢しているみたいに泣き続ける堀内を見つめた。
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