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「――ヒッ」
顔をグニャリと歪めて堀内が俯いてしまうと、髪で隠れて表情が分からなくなる。
「堀内……」
「んんん――」
喉から絞り出すような声が返ってきて、口を強く閉じているところを想像する。
素っ気無い態度見せても、俺の傍にいて。
何度も“別れる”って聞いても、首を縦に振らないで。
人の背中に隠れてた頃とはもう違うって、自分で思わないのかな。
「気付いてやれなくて、ごめん」
男のことを、なんであんなに頑なに俺に言わなかったのか、もう、考えなくても分かる気がする。
“幻滅しましたよね”
さっきまで心の中にあった黒い汚い靄のことを考えると、堀内が一番恐れていたのは、俺があの感情を抱くことだったんじゃないかと思う。
「俺……どうしたらいい? 分からないんだ。どうしたら、泣き止んでくれる?」
今辛いのは堀内なのに、自分の口から出た声は掠れていて、声だけ聞けば、俺の方がよっぽど辛そうで笑える。
堀内が少しだけ顔を上げて、濡れた睫が見えた。
頭を傾けて覗き込むと、肌の色がみるみる赤く染まっていく。
掴んだままでいる手首まで熱くなる気がした。
「堀内?」
「うま、馬木くんに」
「うん?」
「触られたい」
「――え?」
聞き間違えかと思った。
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