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「では、おじ様でいかがでしょうか?」
さあこれでどうだ。
フォルデリカは意気揚々と提案したのだが、一睨みだった。
常日頃から眼差し鋭い公爵だ。
視線ひとつで相手を黙らせてしまうという特技を持つ。
――要はあまり言葉で表現するタイプではない。
そう。
だからアルザルド公爵は、とんだ気難し屋と囁かれていた。
そんな公爵をものともしない少女は、呆れ顔でため息をついた。
話しがいっこうに進まないではないか。
「不服そうですね」
「……名前で」
「はい?」
「名前で呼べばいいだろう」
「名前ですか。名前ですね。えーっとちょっと待ってくださいね」
「……。」
正直、そう来るとは予想していなかったので、まあ・おいおい覚えて行けばいいか! と気楽に構えていたとは言えない。
それでなくとも皆が皆、彼を公爵様としか呼ばないから、それしか覚えていない。
「えーっと、高貴な御方の名前はちょっとムツカシイのと、緊張してるから中々思い出せないだけなので、あんまりプレッシャーを与えないで下さいましね?」
どこかだ、と視線だけで問いかけてくる公爵様に、フォルデリカは考え込んだ。
ええと。
えっと。
えぇーっと?
この方に初めて会ったのは、確かひと月ほど前だった。
アルザルド家の紋章入りの馬車が、フォルデリカの生家の前に止まったのは。
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