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彼が最初に気が付いたのは足下が石畳であったことだ。これは、今までの旅で時々、見かけた光景なのでさほど珍しくもなかった。前の世界では、霧だらけだったので、いつも着ているジャケットやシャツは湿気り、金髪も濡れていた。ポケットからタオルを取り出すと、それで、髪の毛を拭く。
そして、髪を拭き終え、顔を上げると周囲が格子で囲まれていることに気付いた。厳密には左右が頑丈そうな鉄格子で前後は細長い通路。天井には小さくも明るい電灯がぶら下げられいたが、電気は点いていなかった。
「何だ?ここは・・・。どこかの刑務所か?」
これは、異世界を旅するトレジャーハンター、トコリコの率直な感想であった。鉄格子がある施設など、刑務所ぐらいしか思いつかないからだ。
「まずいな。オレ様は部外者だからな・・・。見つかったら、間違いなく捕まるよな」
今までの経験上、自分がいる場所が非常にまずいということは分かる。仮に刑務所でなかったとしても、鉄格子で仕切られた場所だ。何かしらの重要な施設であることは間違いない。それは、つまり見つかったら戦闘は避けられないことを意味していた。
「あの・・・」
トコリコが通路で考え事をしていると右の檻から彼に呼びかける声が聞こえた。振り向くと、一人の中年ぐらいの女性が不思議そうな顔をしてトコリコを見ていた。
「何だ?オレ様に何か用か?」
「用かじゃないよ。人の『家』の前で何やってんだい」
「家の前?」
女性の言葉にトコリコは首をかしげた。暗がりの中、よく見れば、女性は檻の中で洗濯をしていた。ここは、刑務所のはずなのに、女性の身なりはしっかりとしていた。囚人?であるのにも、関わらず、まるで普通の人と同じだ。
「もうすぐ、日光の時間なんだ。そんな所に突っ立っていられると、洗濯物が乾かないんだよ」
「日光の時間?乾かない」
「そうだよ。あんた、どこの町のもんだい。あんたらの町は、まだ『夜』なんかい?こんな時間に出歩いて、看守に見つかったらどうするんだい」
女性はさっきからおかなし事ばかり言っていた。自分が収監されているはずの牢屋を家などと言っている。おまけに、日光の時間だとか町とかおかしな話ばかりだ。
トコリコがどういうことなのか理解に苦しんでいると、急に通路が明るくなった。さっきまで、消えていた電灯が点いたからだ。
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