28313人が本棚に入れています
本棚に追加
さて、美味しいもの探そう。
立食式だけれど、ちゃんと座る場所もあって。
山盛り盛りながら、皆と席についておしゃべり。
さっきの東條の事を根掘り葉掘り聞かれながら、
「そういえば」
誰かがふと気付いたように言う。
「紅羽、一時期あのくらい大きな男の子とよく一緒にいなかった?」
「あー。そういえば」
なんですと?
「それって、2年生の時?」
聞くとそうだと言う。
「彼に背丈は似てるけど・・・」
違うの?
東條じゃないの?
「金髪・・・だったよね」
へあ?
「うちらも遠くから見かけただけだから。でも確かに金髪だった」
「瞳も蒼くて、なんか留学生とかクレちゃん言ってなかった?」
また別の友人が。
金髪碧眼。
留学生。
確実に東條じゃない。
そして、その彼の事は完全に記憶から抜け落ちていた。
---どういうこと?
東條の他にも、なにか忘れている事があるの?
「紅羽、眉間にスッゴイしわ」
皆に大笑いされて、思わずわたしも笑ってしまう。
楽しくおしゃべりしていると、
「紅羽・・・?」
後ろから男の人の声が。
振り向くと、
「あ・・・」
忘れていたけど。
いたんだった。
わたしにも元カレが。
一つ上の先輩だった彼は、少し大人びて。
でも当時と変わらない笑顔だった。
「ちょっと、いい?」
みんなと離れて先輩とホテルの庭に出る。
今日はポカポカ陽が照っていて、暖かい。
当たり障りのない話をしながら、近況を報告して。
「・・・・・」
どちらも無言になってしまう。
その彼の横顔をぼんやり見ていて、もうなんの感情も湧き起こらないことを不思議に思った。
『不感症なんだよ』
そう言ってわたしの元を去った彼に、今はもうどうとも思わないのが不思議だった。
東條の、おかげかな。
わたしの視線に気づいてバツが悪そうに頬を染めて横を向き、
「紅羽は・・・綺麗になったな」
頬を指でかきながらお世辞を言う。
「お世辞、上手くなりましたね」
「イヤ・・・本当に」
歩くのを止めてこちらを向き直った彼の瞳は、真剣だった。
最初のコメントを投稿しよう!