第4話 元カノ元カレ

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「・・・紅羽に会うの、遅かったみたいだな」 わたしの頬を、髪を撫でながら、 「あのあと・・・何度も謝ろうとしたんだけど。すぐに夏休みに入って・・・」 言い訳だな、そう自嘲気味に笑う。 「夏休み中、構内でたまに紅羽を見かけたけど・・・背の高い大柄な男といるのをよく見かけて」 「もしかして、金髪の・・・?」 みんなが言ってた男の子かな。 頷いて、先輩は続けた。 「なんだ、もう新しい男がいるのかよって。ムカついて、それっきり」 そう。先輩はサークルもやめてしまった。 「紅羽はそんな奴じゃないのにな」 先輩が背中に回す手に、力を込める。 わたしはこれ以上くっつかないように、先輩の胸に両手を当て押しとどめていた。 「・・・紅羽、連絡先を教えてくれないか」 え? 「困った顔するなよ。違うって」 苦笑して、わたしを腕から解放してくれた。 ポケットからスマホを取り出し、 「美味しいもの倶楽部、大人バージョンでやり始めたんだ」 それに入ってよ、そう言って笑った。 ホッとしながらも。 無理だな。 と、思った。 わたしのスマホは、東條に筒抜けだ。 万が一元カレと連絡先を交換したなんて知れたら・・・ 思わず身震いする。 考えただけでコワイ。 パジャマを破かれ、噛みつかれ。 次は下手したら盗聴器や首輪を付けられかねない。 「・・・い、今のヒトがヤキモチ焼きで」 言葉を濁して答えた。 しばらくわたしを見ながら考えていた彼は、 「じゃあ・・・これ。何かあったら連絡して」 渡された名刺の裏には、個人の番号とアドレス。 これくらいなら・・・いいよね? 「うん。分かった」 そう言って受け取った。 「良かった。紅羽にはまだ話もあったし」 え? 何を? と、訊こうとしたその時。 「紅羽!」 わたしを呼ぶ声。 振り返ると、 「彪翔・・・」 少し息を切らした彪翔がいた。 「アイツ・・・」 「え?」 先輩が小さな声で言った言葉に、耳を疑う。 『三浦ニハ キヲツケロ』 確かに、そう聞こえた。
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