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通されたその部屋は、スウィートとまではいかなくても、かなりの広さだった。
彪翔はまだわたしを離さない。
「座って」
ソファーを指し示してやっと、わたしを解放してくれた。
くるっと背を向けると、カウンターでコーヒーを淹れ始める。
「ドリップ式のインスタントしかないけれど」
そう言ってカップを差し出すと、自分の分も入れてわたしの隣に座った。
「・・・で?」
でって?
「他に何云われたの・・・アイツに」
「何も・・・」
「何もない事は無いよね」
畳みかけるように云われ、グッと言葉が詰まる。
「それだけだったらみんなの前で言えば良い。わざわざ紅羽を人気のない場所へ誘う必要のある話をしてたんでしょ」
苛立ったように言う。
「どうしてそんなに怒るの?」
「紅羽が無防備すぎるからだろ」
静かに怒りのオーラが見える彪翔の言葉に、反論出来ずに押し黙る。
コワイ。
彪翔が怒ると、こうなんだ。
静かに理論的に。
でもわたしの退路を完全に断つ。
決して声を荒げたりしないけれど。
「・・・昔の事、ゴメンって」
続きを促すように、視線を合わす彪翔。
「謝ってクレマシタ」
後半がカタコトになってしまったのは、仕方ないと思う。
怖い。
東條みたいに勢いよく怒ってくれたら、わたしも強く出られるんだけれど。
彪翔みたいな凪の海のような、静かに深く怒られると反抗できなくなってしまう。
「紅羽」
名を呼ばれ、俯いていた顔を上げさせられた。
彪翔の長く綺麗な指が、わたしの顎(アゴ)を捉(トラ)えている。
「他にもあったよね?」
言いながら、ゆっくりと顔を近付けてくる。
「???」
完全にパニックのわたし。
くちびるの触れそうな寸前で止まり、
「アイツに何言われた---何された?」
言いながら、首を。
傾けて・・・
ゆっくりと---
スローモーションのように見える一連の動作。
彪翔のくちびるが少し開けられたのまで、見える。
伏せられた彼の瞼を覆う、長い睫毛。
すっきりした鼻梁に整ったくちびる。
肩を抱かれ、顎を取られ。
彼の香水の香りがやけに艶めかしく感じて・・・
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