第4話 元カノ元カレ

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笑う彪翔の顔がほんの少しだけ、寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。 高校の時も大学の時も、たまに彪翔には彼女がいた。 取っ換え引っ換えという訳ではなかったけれど、何人かはいたはずだ。 「・・・彪翔、今は彼女いないの?」 「---今は・・・いいや、そう言うの」 コーヒー冷めちゃったね、何て言って笑ってる。 「紅羽は、東條の事。好き?」 直球で訊かれて顔が赤くなるのを感じながら、頷いた。 「アイツいつも強引だから・・・もし本当は紅羽が嫌だって言うなら」 そこまで言って言葉を切り、わたしの瞳を真っ直ぐに見つめ、 「どんな事をしても、紅羽を守るよ」 だって親友だからね。 優しく笑って、頭を撫でる。 ---三浦ニハ気ヲ付ケロ そんな先輩の声がふとよぎった。 でも。 彪翔・・・まさか。 もしかして---わたしを? 「三浦部長の息子」 「え?」 わたしの顔をじっと見ていた彪翔が不意に言った言葉。 「昔からそう言われてきた・・・今は専務だけど」 黙って彼の言葉の続きを待つ。 「紅羽くらいだったよ。僕が誰の息子かって知っても変わらなかったの」 そう言って、クスクス笑う。 「最初は会社の規模が分からないのもあって、紅羽は薄い反応でさ。でもある日テレビで父の会社の特集を見たって、学校で話題になって・・・」 そういえば、そんな事もあった・・・ 「そしたら紅羽がこう訊いてきたんだ」 『三浦君のお父さんの会社の社食、安くて美味しいんだって、食べた事ある?!』 確かに・・・聞いたような・・・ 彪翔が思い出し笑いをしながら、 「みんな父の年収とか住んでる家の広さとか、そういうことばっかり聞いてきたのに」 まだクスクス笑ってる。 「呆れるみんなにこう言ったんだ」 『だって三浦君は三浦君でしょう?関係ないじゃない』 シンプルだけど、と彪翔が言う。 「僕はその言葉で救われたんだ」 だから、と続ける。 「紅羽は僕の救いだったんだよ」 深く静かな瞳。 その奥にある情熱を押し込めてわたしを見つめる彪翔に、 「彪翔は一番の親友だよ」 思いっきりの笑顔で答えた。
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