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笑う彪翔の顔がほんの少しだけ、寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
高校の時も大学の時も、たまに彪翔には彼女がいた。
取っ換え引っ換えという訳ではなかったけれど、何人かはいたはずだ。
「・・・彪翔、今は彼女いないの?」
「---今は・・・いいや、そう言うの」
コーヒー冷めちゃったね、何て言って笑ってる。
「紅羽は、東條の事。好き?」
直球で訊かれて顔が赤くなるのを感じながら、頷いた。
「アイツいつも強引だから・・・もし本当は紅羽が嫌だって言うなら」
そこまで言って言葉を切り、わたしの瞳を真っ直ぐに見つめ、
「どんな事をしても、紅羽を守るよ」
だって親友だからね。
優しく笑って、頭を撫でる。
---三浦ニハ気ヲ付ケロ
そんな先輩の声がふとよぎった。
でも。
彪翔・・・まさか。
もしかして---わたしを?
「三浦部長の息子」
「え?」
わたしの顔をじっと見ていた彪翔が不意に言った言葉。
「昔からそう言われてきた・・・今は専務だけど」
黙って彼の言葉の続きを待つ。
「紅羽くらいだったよ。僕が誰の息子かって知っても変わらなかったの」
そう言って、クスクス笑う。
「最初は会社の規模が分からないのもあって、紅羽は薄い反応でさ。でもある日テレビで父の会社の特集を見たって、学校で話題になって・・・」
そういえば、そんな事もあった・・・
「そしたら紅羽がこう訊いてきたんだ」
『三浦君のお父さんの会社の社食、安くて美味しいんだって、食べた事ある?!』
確かに・・・聞いたような・・・
彪翔が思い出し笑いをしながら、
「みんな父の年収とか住んでる家の広さとか、そういうことばっかり聞いてきたのに」
まだクスクス笑ってる。
「呆れるみんなにこう言ったんだ」
『だって三浦君は三浦君でしょう?関係ないじゃない』
シンプルだけど、と彪翔が言う。
「僕はその言葉で救われたんだ」
だから、と続ける。
「紅羽は僕の救いだったんだよ」
深く静かな瞳。
その奥にある情熱を押し込めてわたしを見つめる彪翔に、
「彪翔は一番の親友だよ」
思いっきりの笑顔で答えた。
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