第4話 元カノ元カレ

31/31
28167人が本棚に入れています
本棚に追加
/1110ページ
店を出て、彪翔と並んで歩く。 しばらく無言で、お互いに顔も見なかった。 「・・・ありがとう」 不意に呟いた彪翔の声に驚いた。 「・・・?」 彼の横顔をじっと見てると、 「アイツが僕のせいにした時、僕のせいじゃないって言ってくれて」 ふわり、微笑んでわたしを見た。 「・・・本当に邪魔してたの?」 してたんだろうな、そう思いながらも訊いてみる。 「そうだよ。紅羽もそう思ったんでしょ?」 クスリ、悪びれることなく笑う。 「怒らないの」 そう訊かれたけれど。 「彪翔の妨害に負けちゃうような人だったんでしょう」 そう言うと、 「ははは。負けなかったのは東條くらいだよ」 面白そうに笑う。 「あの店には東條が?」 「そう。嫌な予感するからって」 全く。 東條の勘って、 「野生並みの勘だよね」 思ってた事を先に言われ、2人で顔を見つめ合って笑う。 「ホント、嗅覚がすごいって言うか」 「営業も、あの野生の勘が効いてるんだろうな」 笑い転げて、 「彪翔のせいでランチ食べ損ねた。なんか奢って」 お腹をさすって恨めしく睨む。 「フレンチ?イタリアン?」 「イタリアン!!酒も飲む」 「ええっ。酔っ払わないでよ」 困ったようにそう言いながらも、タクシーを拾ってお店に連れて行ってくれた。 彪翔とは基本割り勘だけど。 今日はうんと高いものを奢ってもらう。 きっとそうした方が、彪翔も気が済むだろう。 元カレの事もケリがついて、ホッとひと安心していたわたしは。 このあとさらに目まぐるしい日常が訪れるなんて。 夢にも思っていなかった。 ほろ酔い気分で家まで送って貰って。 ゴルフを終えて夜に戻ってきた東條を玄関までお出迎え。 「おかえりいい」 「オマエ・・・酔ってん・・・んっ」 小言が始まりそうだったので、背伸びしてそのくちびるを塞いだ。 「ね、シよ」 「酔っ払いとはシねえ」 嫌そうにそう言うけれど。 「・・・イヤ?」 彼の胸に身体を預けて、上目遣いでおねだり。 ヒュッと喉の奥が鳴ったあと、噛みつくようなキスをして。 そのあとたっぷり甘い時間を過ごしたのだった。 嵐の前の、静かな1日。
/1110ページ

最初のコメントを投稿しよう!