第1話 森下という奴

3/57
前へ
/61ページ
次へ
「森下里奈です。好きなものは、スポーツ観戦です!! 一年間よろしくお願いします」 突然、思考を遮った前の席の女子の声。 その子の声は信じられないほど裏表が無く、凛としていた。 ――まるで、俺と正反対。 それが、俺の森下に対する第一印象。 そして俺は、いつの間にか奴の声に聞き惚れていた。 「あの……。 次、中村君だよ?」 またも聞こえてきた、心地よい響き。 ぼうっとしていた俺の頭が、瞬時に冴え渡る。 ぶっきらぼうに「ありがと」とだけ言って、立ち上がる。 「中村遼也です。よろしく」 それだけ言って、席に座る。 案の定、ボクの淡々とした自己紹介に、クラス中にざわめきが広がった。 どうせ、変な奴だって思ってんだろ。 ――また俺は、クラスの奴らから遠巻きにされるんだ。 ひねくれた性格のお陰で反射的に出てくる諦めにも似た考え。 でも……今回は、そんな俺の卑屈な予想が見事に外れることとなった。 「中村君って…… 恥ずかしがり屋さんなの?」 少しはにかみながら、聞いてきた森下。 「は……?」 今までの誰とも違う不思議な反応に、俺は思わず言葉を詰まらせた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加