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七月二十八日 十時二十分
雨音が鼓膜を刺激した。
容赦なくあたしの身体を濡らしていく。
十年前、ここにあの子を埋めた。
まだ小さくて、小刻みに震えていたあの子を。
ここはあの子猫の墓。
あたしは傘もささずに墓の前に立ち尽くしていた。
空は灰色、今のあたしにぴったりな天気。もう全部洗い流してくれたらいいのに。
今日は約束の日。集合時間までまだだいぶある。
それまで何をすればいい?
こうやってずっと突っ立っていても始まらないことはわかってる。何をすればいいのか、誰か教えてよ。導き出してよ。
いっそ人間以外の生き物に生まれてくれば良かった。争いなんてめったにないし、喧嘩をしても、しばらく経てばお互いに仲良く毛づくろいをしてる。
学校も、テストも、塾も、バイトも、……宗教もない。
それに比べたら、人間はなんて面倒くさい生き物なのかしら。
ごちゃごちゃと絶え間なく問題ばかり生み出して。
「……お姉ちゃん? 何してるの傘もささないで」
二階の部屋の窓から妹が顔を出してきた。シャーペンをくわえて勉強中らしい。
「……墓参りよ」
「なにも雨の日にしなくてもいいじゃない」
「したくてやってるのよ。ほっといて」
雨粒が地面をまんべんなく濡らした。乾いている部分はなくなった。
「あんたこそ窓閉めなさいよ。部屋が水浸しになるでしょ」
「開けたいから開けてるのよ。ほっといて」
おうむ返しなんかして。
生意気。
人の気も知らないで。
「お姉ちゃんてさあ、悩まなくてもいい問題を重く悩む癖があるよね。寿命が縮まるよ」
あたしは二階を見上げ、キッと妹を睨みつけた。
「うるさい! あたしはあんたと違ってマイペースで単純な人間じゃないのよ!」
雨音だけが辺りに響いた。
やっちゃった。
ついカッとなって妹に強く当たってしまった。あたしお姉ちゃんなのに。
「……ごめん。こんなの八つ当たりよね。あんただってそうやって馬鹿なふりしてるけど、悩みだってあるよね。ごめん」
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