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そんな毎日がダラダラと過ぎていた。
ーーこの日は、シリウスが珍しく自分から加代子を昼ごはんに誘った。別に予定が入っているわけではなかったので、彼女はいつものメンツに断りを入れてから、シリウスの机の前に腰掛けた。
「珍しいよね、シリウスから私を誘うのは、小学生以来じゃないの?」
「そのくらいだね」
「……」
加代子は彼女の幼馴染ではあるにせよ、共通の話題は生憎持ち合わせが少なすぎた。会話のテンポの違いから、なかなか話をつなげるのは難しく、すぐに途切れてしまう。「カヨちゃん、最近さ、疲れるよね」
真昼の透明な陽光が差し込む窓の外を見ながら、シリウスは言った。加代子は釣られて外を見るがーーああ、校庭にいるカラスを見ているのだな、と思った。「別に?」ーーそんな素っ気ない回答しか返せない。なんで小学校の時にあんなに話すことができたのか、不思議になるほどに。
シリウスの退屈そうなため息が聞こえた。正直彼女にそんな反応をされる事を考えなかった加代子は内心ムッとする。
「そっか……私は、疲れるなぁ」「ふーん……」
その後は、互いに黙って弁当を食べてしまった。春の終わりの暖かな風が窓から入って来て、シリウスの長い横髪を薙いで、彼女の顔を隠した。加代子はタブレットを弄っているだけだった。
本当に、何がしたいのだこの子は。
加代子にとって何もできない時間は、退屈で苛立つのであった。シリウスは、カラスが何かを啄ばむ様子を見ているばかりだった……が、ふと、重く口を開いた。
「どうしたら、カヨちゃんみたいになれるのかな……」
加代子はタブレットに向けていた視線を、思わず急上昇させて、彼女の顔を見た。その表情は、憂鬱に満ちていた。いつもの彼女ではない。
そこにいるのは、加代子の知っている峯野青星(シリウス)ではなかった。誰かになりたいなんて絶対に言わない。少なくとも、その時はそう思っていた。
加代子は、カラッと笑みを浮かべて、シリウスの肩をぽんっと叩いた。シリウスはこちらを振り向くが、憂鬱よりもさらに深い表情に、変わった気がした。しかし、彼女を元気付けようかと善意で思っていた加代子はその表情を負の感情の表れというジャンルの枠でしか捉えることしかできなかったのだった。
「おいどうしたどうした!らしくないではないかっ!」
すると、シリウスは彼女に優しく微笑んで答えたのであった。「あはは、ですよねー」
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