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口調はいつもの彼女の穏やかさそのままで。
ーーそれを言い訳にするつもりは無い。彼女は明らかに変だった。私は気がついてはいたのだ。
まさか、シリウスが死んでしまうなんて。
地面に紅蓮の実を散りばめている彼女を、加代子は呆然と見つめることしかできなかった。
口を押さえて畏怖の表情で少女の脱け殻と化したものを見つめる生徒達を、先生方が押しのけてブルーシートを……。
わけがわからなかった。
加代子は、そこから衝動のままに走り出して、逃げ出していた。校門を飛び出した。何処を走った。何処を……そこは、商店街だった。
そこにあるのは、都会の人の波だった。加代子は、その人波を掻き分けて、必死に何かから逃げていた。必死に、人を突き飛ばしてまで。
ここではない。こんな冷たいところではない。こんな冷たいところで、泣きたくない。ーー泣きたい? 彼女の脚は、止まった。
ーーああ、そうだ……シリウスの側なら、今頃泣けたのに。
そう思った瞬間、涙が溢れ出して、頬を伝った。幼馴染の彼女の思い出が、蘇る。再び、走り出した。
何故、彼女の為にこんなに走っているのだ。何故、好きでもない奴の為に私が走らなければならないのか。そして、住宅街に出た。加代子とシリウスの家のある、昔馴染みの場所を、駆け抜けた。
公園。『カヨちゃんには、夢はある?』『ないよ、そんなもの』『うーん、カヨちゃんなら何でもできそうだけど……』
コンビニ。『カヨちゃんは楽しく生きたいんだね』『ん、なんで』『いつも友達と一緒だもの』
加代子の家。『カヨちゃーん!遊ぼー!』『はーい!着替えるからまって!』
丘のふもとの神社。『カヨちゃん。蝉!』『いやっ、近づけないで!』
丘の見晴らし台『カヨちゃん、聞いてね。私、夢ができた』『へえー、教えて?』『教えない』『そこまで引っ張っておいてなんだぁ……』『今は、教えないの』
ーータブレットが、振動した。メールを受信したのだった。その件名を見て、加代子は一瞬固まって、それから開いた。時間差メールは、シリウスからのものだった。
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