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「シリウス……」
あの時、加代子はシリウスの飛び降り自殺に居合わせていた。彼女の姿が壊れる様を思い出し、頭をぶんと振った。
よくよく思えば、半信半疑。彼女が死んだ事に納得ができない。不思議な事に、事件当初よりも彼女が死んだという事実認識は、失われていた。
しかし、彼女は自殺を見てしまって、そして、ここへ逃げ出してしまった。それはシリウスが死んだからだ。
そんなシリウスから、メールがきている。読むことは躊躇われた。ーーもし、加代子を責める内容であったなら、彼女はどれだけの絶望を味わうかと恐れたのだ。しかし、震える指で開いてしまった。
傾きはじめた太陽を背に、彼女は恐る恐る読み始めた。
『sb.カヨちゃん
このメールが届いた頃には、私は死んでいるのでしょう。昼休み、話聞いてくれて、それだけで私は嬉しかったよ。やっぱ、カヨちゃんはわたしの友達だなって、思えた。ありがとう。
ごめんね。さよなら。
ps.むかし、言いそびれた夢の話。私の夢は、自由になること。それだけ』
あまりに簡素。そして、予想外の内容。しかし、それは加代子の心をとても深く突き刺した。ふらり、ふらりと、見晴らし台の手すりにつかまって、加代子はそこに爪を立てた。あまりに、胸が焦がれていて、呼吸が苦しい。
「わからない……わからないよシリウス」
ーーいつからだったか。彼女を好きとも嫌いとも思わなくなったのは。それはわからない。ただ、シリウスは加代子を知り理解しすぎていて、近すぎた。
ああ、そうだ。友達ではないのだ。彼女は、もっと近かったのだ。シリウスはそう思っていたのだ。きっと、加代子は自分が性格的に姉だと感じていた。
だけど、本当にそうなのだろうか……。違う。私は……。加代子は、空を仰いだ。積雲が、ぷかぷかと浮いていて、黒かった。
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