極光

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ちなみにジャックにとってはこの文化は衝撃的で、「君がイエローナイフに来てくれて、僕は本当によかった」と言わしめたほどだった。一応嫁にも否定する権利があると言ったら、少し落ち着いてくれたが。 そんなわけで、私達の村は壊れてしまった。 そして、私は生きるために村を出た。この経済社会の中でなんとか生きていく為に、村を見捨てて。家族は、笑って見送ってくれた。彼らは私を、理解してくれたのだ。 私はそれから、カナダ人のマックスの案内で車で移動し、彼の家族に二年間お世話になった。その間にパン屋でも修行を重ね、三年目にはだいぶ英語も喋れるようになって一人暮らしを始めた。パン屋の常連だったジャックと恋に落ちて、五年目、結婚式では家族と、一時的な再会を果たすことができた。 それから、私はパン屋としての独立を果たすことができて、時は幸せすぎてあっという間に過ぎていった。 そんなある日、ふと、故郷の事を思って私は身籠る身でありながら、彼にお願いして一週間帰郷することにした。 ……やはりこの雪原を見るだけで、遠くなったはずの思い出が、また復活する。 「ジャック」「なんだい?」 「この子が大きくなったら、また行こうね」 「ああ、そうだな」 私達は、愛し合っていた。幸せで、これからもずっと。 私は懐かしい肉の匂いに、酒臭い村の匂いに、思わず泣きそうになった。 雪に彩りを溶かすのは、異文化。何故だろうか、いつもは雅に感じる赤ワインの色が、穢れて見えた。 変わった。変わってしまった。私のイメージより遥かに、世界が。ここは、本当の意味で極寒の世界になってしまったのだろうか。焚き木の後とか串とか魚の屑とかワイン瓶とか木造の家とか、なるべく視界の端から消えていかせたくて、私は真っ直ぐ、妊婦なのにジャックより速く歩いた。 そして、いつの間にか、懐かしい我が家はーーしっかりした木造の一軒家となって、そこにあった。 どうやら私の仕送りだけではなく、自分たちで金を稼ぐことには成功していたようだが……。 深呼吸をした私はふと、懐かしいイグルーを思い出して、玄関の呼び鈴を揺らそうとするのを躊躇い、硬直する。扉一枚で他人を隔てる寂しさが、そこにあった。
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