極光

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慌ててもがいて、助けを求めて叫ぶ。 「ジャック!だれか、助けて!」 寒さを忘れるほどの恐怖で、私は我を忘れていた。必死で陸地の氷を掻いて、引きずりこまれんと足を暴れさせた。しかし、何にも触れない。 遠くで、私の名を呼ぶ声が聞こえる。 早く来て。全ての時間がスローで、その空間に私は氷漬けにされて居るようで、わけのわからない金切り声をひたすらにあげた。 「あ……」 しかしついに、私の手は愛しい氷の大地から滑り落ち、再び水の中へ。 ……苦しい。 混乱のさなか、私は急に足を引っ張るものの正体を確認すべく、目を開けた。しかし、何もなく、ひたすらに透明な何かに足首をキュッと絞められている様だった。 はなして! その心の声に呼応するかの様に、脳内に何かが響く。 ーー……れないでーー 距離、向きなんかはわからない。この世の空間全てが、共鳴していた。 ーー忘れないでーー 私の時が、止まった。あまりにショッキングで、心に訴えられるその声に、私の意識は考えられるものに帰った。 私は、この声を知っている。 ーー忘れないでーー 姿はないけど、わかる。わかってしまった。 さっきのような、突発性の恐怖ではなかった。これは、もっと人の心というものに刻む類のもの。 本物の恐怖。 (アラク……!) その刹那後、私の身体は水上に引っ張られて、ガタガタ震えていた。ジャックに泣いて怒られて抱きしめられ、それでも私は感謝も謝罪の言葉も発することができなかった。 ただ、ひたすらにお腹を抱えていた。 私は、幻を見たのか、感じたのかもしれない。しかし、察しが良すぎるのは私の悪い癖だった。 アラクは、私が彼を忘れる要素を消そうとした。それは赤ん坊のことだ。 私は、引き上げられる直前、実は一瞬思ってしまったことがある。いや、決めてしまったというのが妥当か。 心で叫んだのだ。 ーーこのお腹の子の名前は、アラク。貴方の名前なのよ! すると、足は解放され、私は引き上げられた。仕方のないことだったのだ。赤ん坊を助けるために、そしてアラクを救うためには……。 ……私は、それから五年後の今なら、思える。 アラクは、ずっと私のことを思って、幸せを願っていてくれた。 多分、世界の空気とか水とかに溶けて、私を見ていたのだ。
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