極光

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狂っていると思われても構わない。私は、思う。 私は、数々の奇跡を生きてきた。運のいいやつだ。あの時、アラクの声を聞くまではそう思っていた。 だけど、違う。 先述の通りアラクは自然に溶けて、私を守ってくれていたのではなかろうか。 ビルの建設工事現場の下を歩いていて、頭上に鉄骨が降ってきたとき、私を押して助けてくれた突風。氷漬けの地面の上で転んで痛がっていた私の目の前で、自動車が歩道に突っ込んだ。ジャックと会えて、たまたまお茶して意気投合して、いつしか愛し合った。私は、彼からもらったアザラシの爪の首飾りを、いつも付けていた。 つくづく理屈は通らないけど……もし、私をずっと彼が守ってくれたのなら、これまで起きた私の奇跡は、彼が歩むはずだった人生であったのだ。 アラクは、私を幸せにしようと、その一心で動いていた。じゃなきゃ、ジャックなんてもうアラクに呪われて死んでいる。少年は、私を愛していた。あの頃の純粋さそのままに。 私は、酷いことをした。 アラクとの思い出は、彼の死により何処か辛いものになって、いつしかその淡くもかけがえの無い記憶を疎んだ。 私は、本当に酷い女だ。どうして、心を持った一個人を別の命で補ようというのか。都合良く命の平等性を認識して、等価交換などという安い理屈を、命に当てはめた。可哀想な、私の赤ちゃん。 一人一人が、この世の生物の一匹一匹がかけがえの無い存在であるはずなのに。 アラクが怒るのも、当然だろう。 彼が忘れられて良い理由など、虚構に過ぎなかったのだ。私自身が感じたその理由への信憑性は、結局私の主観でしかなかった。 環境に対するその主観的な価値観の強制など、アラクに通用するはずがなかったのだ。 私が感じた愛には形と見返りは無かった。表面上は、だ。 もし、その表面化されないものをあえて例えるならば、存在という言葉でまとまるのだろう。 彼は、『存在していた』。しかし、考えを改めねばならない。彼は、『存在する』。私の人生の『軌跡』と『奇跡』を作った彼がいて、今の私は生きている。 私の存在が彼で、彼の存在が私。……形のなくした純愛。 私はジャックを、私の赤ちゃんの『アラク』を、この上なく愛している。彼らを見てこの世界が愛でできていると実感するたびに、私は幸せものだと、思える。
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