第一章―Light of Cosmos―

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「あくまで可能性の話ですが、あなたの後輩の……邑上刑事を殺すことになってしまうかも知れません」 刀麻は哀しげな顔で、続けて言葉を紡ぐ。 「どういうことだ?」 「……魂が喰われてしまったら、その人間は死ぬ。邑上刑事が死ねば、その肉体はカオス……スペクター、“宮寺幻龍斎”の物となる。つまり、見た目こそ人間とほぼ同じですが……“生物”ではなく“魔物”、この世の理から外れた化物に変化してしまうんです」 険しい表情で尋ねる中年刑事に、刀麻は言い辛そうに説明した。 「……もしそうなってしまったら、救う手はありません。あるとすれば肉体の生命活動を停止させ、内に取り込まれた魂を解放してやることだけです」 「そんな……そんなバカな話があるはず……」 悲痛な表情で説明を続ける刀麻、対する中年刑事は怒りに震える拳を握り締め呟いた。しかし、その怒りの矛先は“後輩を殺すかもしれない”と宣ったこの青年・桐生刀麻ではなく、自分自身に向けられていた。 「こうなった原因は、捜査が打ち切られたのを“腹立たしい”と思いつつも、あいつを突き放すようなこと言っちまった俺だ……くそっ、俺はなんてバカなんだ……」 俯き、自責に駆られる中年刑事の拳は小刻みに震えている。 「……一つ、頼みがある。“邑上樹”が“死んで”しまったら、俺に伝えてくれないか」 中年刑事は顔を上げ、一呼吸置いて言う。 「伝えるって、どうやって……」 「そっちの“仕事”が終わったら、この署に来て……それを知らせてくれ」 中年刑事は未だ震える拳を更に固く握り締め、震えを抑えながら刀麻に返した。 「……わかりました」 沈黙の後、刀麻は清掃員の作業着を受け取って頷き、それを再び着直し警察署を出ようと踵を返す。 「……覚えておいてください、我々の使命は決して人を殺すことではありません。魔を討ち祓い、“人々を守る”……それこそが、我らの使命です」 署を去ろうとした刀麻は振り向き、小さく笑みを浮かべながら中年刑事に言う。 「ああ……頼んだぞ」 小さく頷いて、短く返す中年刑事。青年の瞳に込められた決意を、直感的に読み取ったのだ。彼ならば、“彼ら”ならば……“邑上樹”を取り戻せるのではないか……という僅かな希望が、刑事の中に芽生えていた。 「では、失礼しました……」 そう言って、刀麻は警察署を後にした。
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