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決意はした、けど……現実はそんなに甘くない。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
思い立ったからと言って何かすぐに解決できるわけでは当然なくて、上司と部下の関係を崩すことなど勿論出来ない。
そもそも平社員の私と課長補佐では、とてつもない距離があるのだ。
物理的なものではなくて、なんというか……心の距離と言うか、階級的距離と言うか。
たまたま、偶然にその距離が縮まっていたけれど、本来なら一日数回の会話で終了するほどの関係なのだ。
同じ部署だから話すことはあっても、本来補佐がすることと私が担っている業務はまるで違う。
それを裏付けるかのように、最近は主任や係長の仕事が落ち着いたせいか、それとも補佐が避けているせいなのかは分からないけれど……補佐が直接、私に仕事を頼むこともなくなってしまった。
からかわれ続けた会社妻なんてあだ名もすっかり消えてしまうほど、私と補佐の間には距離が出来ていた。
一歩踏み出すってどうすればいいんだろう?
デスクからチラリと補佐を見ては思ってしまう。
仕事で頑張ったり、何かアピールできることがあればいいのに……と思っても、何もない。
だから、そんな私にようやく声がかかった時、嬉しさのあまり飛び跳ねてしまいそうだった。
「江藤、ちょっといいか?」
「はいっ!」
まるで、待て、が終わった犬みたいに元気よく返事をしてしまう。
もしかしたら瞳も輝いていたかもしれない。
「ククッ、お前は元気だな」
少し口角を上げて笑む補佐。
その表情が、江藤が元気になって良かった、とでも言っているようで、急激に気持ちが落ち込んで胸が痛んだ。
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