初めての茜台駅

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 正義は何時もの様に電子葉巻のスイッチを入れた。  レジデンス茜台204号室ここが俺の部屋になる。と、正義は気取って、考えていた。  現場の都合で今日から此処に住むただのオッサンだ。  電子葉巻をくわえたまま、正義はサングラスを掛けた。  茜台駅で部下を待つ間に、首に下げた赤いカードケースを見る。  途端に正義の顔が緩む。  まるで悪徳土建屋から、厳めしいオッサンに大変身したかの様だ。  と、本人だけは思っていた。  実際は微妙に、口が笑っているかどうかだったが。  その写真は穏やかなアップ髪の美人と5歳ぐらいの女の子が、笑顔で手を振っていた。  正義は、妻と娘の写真をじっと見つめていた。  正義は、にこやかに迎えが来るのを待っていた。が、他人から見れば、恐いおじさんが無口に葉巻をすっている、ように見えたであろう。  残念な人である。
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