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重い。
耳障りな金属音は、甲冑か何かを着込んでいる為か?
全く反応が無いため、諦めて立ち上がる。
「他に誰か居ませんか! 僕の名は……。僕の名は……?」
張り上げた声のトーンが下がっていく。
(あれ……僕の名前は? 僕は……僕?)
自分の名が思い出せない。
素性も年齢も記憶から欠落している。
ただ、自分が女性だと言う認識はあった。
自分の顔や身体を触っていく。
何やら軽装でマントを羽織っている。
されど何やらよく分からない貴金属類が、身体のあちこちに付いているのが分かった。
「何なんだよ全く、誰かいませんかー!」
声が虚しく反響する。
声の響き具合から、どこかの隧道にいるようだ。
愚痴りながら先を進もうとして、足を滑らせた。
何かを踏んで、足を踏み外したのだ。
「いっ……た。さっきから何が地面にいっぱいあるんだよ……」
足元を手探りして、今度は足を見つけた。
誰かの足の上に乗って、転んだのだろう。
「あなた達、一体何で寝転んでるんだよ!」
足の持ち主に掴みかかろうとして、その手は空を切った。
「……?」
不思議そうに暗闇の中で手を振るが、当たるものが無い。
本来、“足の先にある筈の胴体が存在しない”のだ。
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