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明け方近く、うっすらと青い光りが地平から零れ始めた。
この辺りも冥魔族の影響により、草木の殆どが枯れ尽くされている。
見た目は不毛の荒野だ。
生物の気配も感じない土地は、まるで空に浮かぶ月のように静謐である。
捜索隊の野営テントから少し離れた所で、レーヴェは一人魔術の訓練をしていた。
手にしたチェーントーラスと呼ばれる、先端にリングが嵌め込まれた鎖をを回す。
すると空気を切るような音の中に、笛を奏でるような音が混ざり出した。
「トーラス呪詠式・ソロ“煌めく氷華”」
レーヴェの眼前の空間が淡く輝く。
細かい碧い光りが瞬くと、それは中空に集約して氷の花を作り上げた。
トーラス呪詠式魔法。
一般の魔術と違い、呪文を詠唱や魔印、魔法陣で構成せず、魔術触媒のみで構築する極めて稀有な呪式形態である。
本来、魔力増幅や、精度補強で使う魔術触媒を中心に据えて、高速呪術言語や神代圧縮言語、咆哮魔術と言った、ワンフレーズ詠唱魔術のスピードに対抗するために編み出された魔術式だ。
複雑、長記の呪文をトーラスフルート(輪環笛)と呼ばれるモノに刻み込み、それを奏でる音色に呪文を音域呪術式として組み込む。
それにより長い詠唱呪文などを、笛の音色一つに集約出来るのだ。
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