孤影を追う者

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トーラス呪詠式とは、魔術の詠唱を道具にさせる、特殊な魔術形態の一つなのだ。 「……こう言う感じかな」 レーヴェは霞む記憶をまさぐり、何とかトーラス呪詠式の仕組みだけは思い出した。 身体中に装備していたチェーントーラスは全て呪文であり、一つ一つが何かしらの効果を発揮するのだ。 「それにしても……」 レーヴェは渋い顔で、再びチェーントーラスを回す。 明らかにわざと雑にだ。 すると発せられた音色の音域に、微妙なノイズが混ざる。 「トーラス呪詠式・ソロ“煌めく氷華」” 再び唱えられた魔術。 しかし、それは中空にダイヤモンドダストを生んで、砕けて消えた。 「……音にブレがありすぎると、魔術にならない……か」 レーヴェはチェーンを指で玩びながら、頬を膨らませた。 詠唱時間の短縮速度は常識外だが、精度が余りに低い気がする。 「音響魔術か~、珍しいよね?」 唐突に背後からかかった声に、レーヴェは驚いて身体を震わす。 振り向いた先には、満面の笑みのアスラージュが立っていた。 「何でここに?」 「毎朝訓練しているのは、皆気づいているよ。そのトーラスは結構響くからね」 「うるさくしてゴメンナサイ」 謝るレーヴェに、アスラージュは首を振って見せた。
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