孤影を追う者

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顔には朗らかなスマイルが張り付いている。 「気にしない気にしない。戦争経験者はそんな繊細な神経してないから。それに仲間が強くなるのは大歓迎だからね」 「そう……なんだ」 浮かない顔のレーヴェを、アスラージュは食い入るように眺めた。 いきなり顔を覗き込まれて、レーヴェは数歩後退する。 好奇な視線に晒されているような気がして、何だか落ち着かない。 「レーヴェは本当に記憶が無いんだね? わざわざ武装確認なんて」 手にしたチェーンに目をやる。 「せめて自分の身は自分で守りたいと思って……」 「それは感心感心。しかし、サウンドマジック(音響魔術)の使い手はかなりレアな筈だよね。確か彫金師と調律師のスキルと、付与魔術が使えないといけない。そっち方面から、君の素性を調べれば良かったかもね」 音響魔法。 一般の魔術師が使う、音声魔術や聖歌魔術の上位にあたる魔術である。 魔術の核たる呪文を、使用する“音響魔道器”の多彩な音域で奏でられるように圧縮アレンジし、詠唱時間を大幅に短縮、広域、複合する事を可能にした魔術体系だ。 それに使用する“音響魔道器”と呼ばれる楽器型の魔道具の姿も様々であり、それで魔術を編むとは傍目には見えない。 しかし、それを可能にするには、音響魔道器を完全に操る高度な手腕が必要となる。
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