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魔術を完成させるには、自身の音響魔道器に合わせた複雑な旋律を正確に奏でなくては成らず、精度にいささか不安が残る。
レーヴェが二回目の音響魔術に失敗したのは、音域を外した為だ。
「僕の使っている魔術は珍しいのかな?」
「確実にレアではあるね。王宮近衛騎士団の中に一人だけ使い手がいるけど、そいつは提琴。それも完全な後衛タイプだからね。その輪環型の笛タイプは見たことないよ」
そう言われてレーヴェはしみじみとチェーントーラスを見つめた。
外側は簡素な柄だが、内側は何やらみっちり魔術文字やら、奇っ怪な図形が刻まれている。
それが空気を震わせて、呪文を構築しているのだ。
「音響魔術……」
「とりあえず焦らない事だよ。本来、音響魔術師は一つの音響魔道器を操って、様々な魔術を奏でる。だけど、君の場合、構築済みの魔術専用の笛を、状況に合わせて使い分けしなければならない」
アスラージュは再びレーヴェの全身をねめ回す。
それは、身体中に身につけた、輪環の数をチェックしていた為だ。
軽く見ても二十近くはある。
それを一つ一つ把握し、状況で使い分けるのはかなり玄人向けの武装と言えよう。
ただし――先程の呪文発生プロセスを見ると、完成までのスピードだけは桁外れに速い。
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